北海道リンパ浮腫診療ネットワーク

ご挨拶

「リンパ浮腫」はひとたび発症すると完治は難しい慢性疾患です。社会的にはマイナーな疾患であり、2000年代になってようやく少しずつ認知されてくるようになりました。2008年以降、制度面での改定により着実な前進がみられる一方で、まだまだ疾患の十分な理解と治療環境が整っていないのが現状です。

平成24年(2012年)4月には、北海道で全国初の「がん術後後遺症対策」が推進されることになりました。北海道がん対策推進条例第17条で「道は、がんの治療に係る後遺症により日常生活に支障を来している者の療養生活の質の維持向上を図るために必要な施策を講ずるものとする」と定められ、「リンパ浮腫」などの後遺症を有する患者のQOL・ADL向上に向けての理解と支援が得られるようになりました。これは非常に画期的なことであり、リンパ浮腫患者にとって力強い追い風となりました。

リンパ浮腫の治療法では、国際リンパ学会で承認されている「複合的理学療法」が幅広い患者に対応可能です。しかし、一定の修練が必要であるため、「複合的理学療法」を行える医療従事者は不足しており、治療希望者は治療施設を求めて遠方からの受診を余儀なくされています。また治療者側においては、治療実経験年数に乏しいために悩みながら診療を行っているものの、身近で情報交換が行える横の繋がりの場がありませんでした。このような北海道でのリンパ浮腫治療事情を鑑み、平成24年(2012年)7月に第一回北海道リンパ浮腫診療ネットワークを開催し、北海道でリンパ浮腫に携わる医療従事者が初めて一同に会しました。

北海道という土地は他県と違って広大ですが、リンパ浮腫の「複合的理学療法」を行える治療施設は数えるほどで、都市部に集中しています。リンパ浮腫治療を充実させていくためには、リンパ浮腫に携わる、あるいはリンパ浮腫の知識を持つ医療従事者が一人でも増え、一定の診療レベルが担保できるような体制を整えていく必要性があり、これらの改善は急務です。進行したリンパ浮腫患者の治療と並行して、早期発見・治療が可能となるようがん術後患者への早期指導介入、さらには北海道におけるリンパ浮腫治療体制の整備、北海道がん対策推進条例に基づくリンパ浮腫医療従事者研修・リンパ浮腫患者へのセルフケア指導研修・市民への啓発、と、現在は課題も多い中、確実に歩をすすめている過程です。何よりも、「リンパ浮腫」の正しい理解と、受診窓口(相談先)を明確にし、正しい情報を提供することは、患者にとって早期発見・治療の糸口になることと思います。

がん術後以外にも「リンパ浮腫」の適応・応用範囲は広く、原発性リンパ浮腫、高齢化社会における在宅・訪問・デイサービスとの連携、がん再発患者に対する緩和的関わり、静脈疾患・合併症を含めた幅広い諸問題に直面します。リンパ浮腫患者と、患者を支える家族の心身を含めたサポートは長期的に必要です。本ネットワークでは、貴重な個の力を結集し、「リンパ浮腫」という疾患自体の認識が社会で高まり、診療体制の改善を目指して尽力してまいります。皆様のご協力を心よりお願い申し上げます。

北海道リンパ浮腫診療ネットワーク 
代表 小林範子(北海道大学病院 婦人科)